裁量免責について
1.裁量免責とは
免責とは、破産者の債務を免除する制度です。裁判所に破産手続開始及び免責許可の申立てをした場合、免責不許可事由がなければ、破産者は免責されます(破産法252条1項)。
では、免責不許可事由に該当する場合には、免責は許可されないのでしょうか。
この点、免責不許可事由があっても、裁判所は「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」(破産法252条2項)とされています。
この制度を裁量免責といいます。
2.裁量免責での一般的な考慮要素
裁量免責で考慮される事由について、破産法の条文上は、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」(破産法252条2項)と規定されており、「一切の事情」を考慮できるとされています。
いかなる事情が考慮されるかは、その時の裁判官、管財人によりますが、一般的には以下の様な事情が考慮されます。
(1)免責不許可事由に関する事情
免責不許可事由の程度、性質、行為が行われた時期(開始決定前か後か)、経緯等
(2)破産手続開始決定までの事情
破産者の年齢、職業、収入、債務負担の経緯等
(3)破産手続き開始決定後の事情
開始決定後の反省状況、破産手続きへの協力状況等誠実性の有無、配当の有無
(4)破産者の今後の生活設計
破産者の経済的厚生への意欲、可能性等
3.免責不許可事由の一覧
破産法は、免責を不許可すべき場合を以下の通り、列挙しており(破産法252条1項)、これを免責不許可事由といいます。破産者に免責不許可事由がなければ免責が許可されます。免責不許可事由がある場合は裁量免責が認められるかが問題となります。
- 詐害目的での財産の不利益処分
- 不当な債務負担行為
- 非義務行為についての不当な偏頗行為
- 浪費または射幸行為
- 詐術による信用取引
- 帳簿隠滅等の行為
- 虚偽の債権者名簿の提出行為
- 調査協力義務違反
- 管財業務妨害行為
- 免責後7年以内の免責申立等
- 破産手続・免責手続上の義務違反行為
4.主な免責不許可事由別の裁量免責での考慮要素
①浪費や賭博その他の射幸行為による著しい財産減少行為(破産法252条1項4号)
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した場合に、免責不許可事由になります。
裁量免責においては、①不誠実性の程度、②浪費・射幸行為をした時期、③現在に至るまでの改善状況、④破産手続きへの協力状況などが、考慮要素とされています。具体的には、横領などの違法行為で獲得した多額の金員を物品購入等の浪費行為で費消したり、投機的な取引の失敗によって費消したりした事例や出資者を募って多額の金員を集め、投機的な取引に費消する事例では負債額が多額になる傾向にあり、かつ、被害者が存在することが多く裁量免責がされない傾向にあります。また、債務整理を弁護士に委任後に隠れて浪費や賭博行為をしていたりする事情や破産手続開始後に浪費や賭博行為をしていたりする事情、破産管財人による免責に関する調査に協力しない事情は免責を不許可にする方向に働きます。
②詐術による信用取引(破産法252条1項5号)
自分が支払不能にあることを知りながら、それがないと信じさせるために詐術を用い、信用取引により財産を取得した場合であり、その行為が、破産手続開始の申立日の1年前から破産手開始日までに行われた場合に、免責不許可事由になります。具体的には、金銭を借り入れる際に、自分の氏名や、他社からの借り入れ額や収入について虚偽の申告をする場合です。
裁量免責においては、詐術による借入額の多寡、詐術の内容・悪質性、債権者の免責意見の有無・内容、破産者の破産手続への協力の有無などが考慮要素とされます。
具体的には、詐術により借り入れた金額が高額である場合、詐術の内容が投資会社を用いて多数の顧客から投資を募るという悪質な場合、債権者が業者ではなく個人の消費者であり被害感情が強い場合、詐術によって取得した金員の使途の説明が不十分な場合などに裁量免責がされない傾向にあるといえます。
③不当な債務負担行為(破産法252条1項2号)
不当な債務負担行為としてよく見られるのは、ヤミ金からの高金利での借入をする行為や、クレジットカードで商品等を購入して安い金額で質入れや売却して換金する行為です。
裁量免責の判断にあたっては、行為の程度・内容、それに至る動機・経緯、信用取引による負債の返済状況・損失等が考慮されることになります。
④不当な偏頗弁済(破産法252条1項3号)
特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別に利益を与える目的(又は、他の債権者を害する目的)で、義務なくして、当該債務を消滅させた(又は、担保を供与した)場合に、免責不許可事由になります。具体的には、ある債権者の利益を図るために、まだ弁済期が到来していない債務の弁済をする場合です。著しい偏頗行為であり、破産者の不誠実性の表れとして免責不許可事由とされています。
裁量免責においては、偏頗行為の時期、金額、態様のほか、破産手続及び債権者に与えた影響(債権者の満足の低下、手続きの長期化)が考慮要素として重視されます。また、破産者が否認権行使に協力した場合には、その協力・寄与の程度や是正・回復の結果も重視されます。具体的には、偏頗行為の金額が多額である場合、偏頗行為のために管財人が否認請求を行わざるを得ず破産手続終了まで相当の期間がかかった場合、否認手続きによっても財団が回復せず債権者の満足が低下した場合などに裁量免責がされない傾向にあります。もっとも、この免責不許可事由で免責不許可とされた事例は多くありません。
⑤詐害目的の財産減少行為(破産法252条1項1号)
詐害目的での財産減少行為の典型的な事例は、破産手続きで財産を隠したり、関係者に財産を贈与したり、格安の値段で資産を売却したりした場合です。
裁量免責においては、財産隠し等をおこなった財産の種類や価値、行為をした時期、債権者が被った不利益の程度、その後の財産隠しが分かった経緯、財産を戻したか否か、破産者の協力の状況等が考慮されます。
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