熟年離婚について
第1 熟年離婚の原因
熟年離婚という言葉をよく耳にします。熟年離婚に定義があるわけではありませんが、一般的には、長年連れ添った夫婦の離婚です。
長年連れ添った夫婦が何故今更離婚するのかということですが、以下の様な理由が代表的です。
(1)性格の不一致の積み重ね
長い夫婦生活において、当初は気にならなかった性格の違いが段々と許せなくなったり、年を経るにつれてお互いの性格も変わっていったりすることで、性格の不一致が少しずつ現れていき積もり積もったものが原因となり婚姻関係を解消するケースがあります。
(2)金銭感覚の不一致の積み重ね
結婚すると、双方の収入と支出を前提に夫婦生活を送ることになりますが、性格同様、お金の使い方も人それぞれです。結婚前からの金銭感覚の違いが段々と許せなくなったり、年を経るにつれて新しい趣味ができたり、ギャンブルや投資に手を出したりすることで、場合によっては多額の借金を負ったりすることもあります。このような、金銭感覚の違いを原因に婚姻関係を解消するケースがあります。
(3)子供の就職
子はかすがいというように、子供への愛情から夫婦仲が保たれる面があります。ただ、結婚生活で多少のすれ違いがあったとしても、子供のことを思って子供が就職するまでは離婚を踏みとどまっていたという場合には、子供が就職して手を離れたことをきっかけに我慢をする必要がなくなり、離婚を切り出して婚姻関係を解消するケースがあります。
(4)退職
仕事は1日の時間の大半を占めるわけですから、退職して仕事がなくなると夫婦で顔を合わせる時間は格段に増えます。退職するまでは、双方が一緒に居る時間が短かったため気にならなかったり我慢出来たことが、退職をきっかけに我慢できなくなってしまうことがあります。
(5)介護問題
40代をすぎると、双方の親の介護が必要になってくることがあります。家庭の事情によっては、自らの両親だけではなく、義理の両親の介護をせざるを得なくなることもあります。介護による身体的・精神的疲労は決して軽いものではありませんし、他方配偶者から労いの言葉もない等の状況も重なって、そのストレスで婚姻関係を解消するケースがあります。
(6)暴力、不倫
熟年離婚特有の問題ではありませんが、相手が日常的に暴力、暴言を用いる、不倫をしているといったことで婚姻関係を解消するケースがあります。
第2 熟年離婚をするために考えておくこと
1 夫婦の資産状況の把握、経済面の計画及び住環境の整備
(1)資産状況の把握
離婚をする際には、夫婦の財産を分けたり、一方に対して婚姻費用を請求することがありますが、そのためにも相手の資産状況や収入をなるべく早期に把握することが大切です。
相手の資産がわかっていなければ、どのように資産を分けていくかの話し合いもすることが難しくなりますし、収入がわかっていなければ、婚姻費用の金額を決めていくことも難しくなります。
特に熟年離婚の場合、相手の退職金が多額になっている可能性がありますので、退職金については特に調べておくことが大事になります。
長年夫婦として生活をしても、夫婦のもう一方の資産状況が分かっていないことも珍しくなく、隠されてしまうと結構分からないものだったりします。預貯金、不動産、株式など相手の資産状況をなるべく早めに確認することが大事になります。
(2)経済面の計画
離婚後に、経済面の不安がある場合には、経済面の計画の準備をしておきしょう。離婚前から就業しておいたりすれば、離婚後の生活に困る可能性を減らすこともできます。
また、離婚をする際には別居費用がかかります。別居費用の目安としては、引越し費用や新たな住居の賃貸借契約のために100万円程度を考えておいて予め確保しておけば別居がスムーズになります。なかなか簡単なことではありませんが、なんとか預貯金をためておくことをおすすめします。
(3)別居後や離婚後の住環境の整備
離婚をする場合、相手と別居することになりますが、別居・離婚後の住環境は必ず整える必要があります。喧嘩などで衝動的に家を出てしまい、住環境が整備されないまま離婚の交渉に入ると、状況を改善するために不利な条件で交渉をまとめざるを得なかったりすることにもなりかねません。離婚をする場合には住環境を確保することが大事になります。
2 離婚理由を明らかにできるようにすること
第1で熟年離婚の原因について説明をしましたが、なぜ離婚をしたいかという離婚理由を明確にできるようまとめておくことが大切です。離婚は、離婚について夫婦が合意して離婚届を提出すれば成立します。しかし、相手がどうしても離婚に合意しない場合は、法定離婚原因がなければ離婚をすることができません。離婚原因は、民法770条1項で、下記の通り定められています(法定離婚原因の詳細な説明は(https://www.orio-sougou.jp/rikongenin/)をご覧下さい)。今の状況が法定離婚事由に当てはまるかわからない場合には、弁護士に相談されると良いでしょう。
- 不貞行為(770条1項1号)
- 悪意の遺棄(770条1項2号)
- 3年間の生死不明(770条1項3号)
- 強度の精神病となり回復の見込みがない(770条1項4号)
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由(770条1項5号)
第3 請求可能なお金や資産の一覧をまとめておくこと
離婚をする際には、状況により配偶者に対して、金銭的な請求をできることがあります。何をどのくらい請求できるかは夫婦の状況により異なってきます。離婚後の生活の目処をつけるためにも、まずは請求可能なお金や資産を明らかにするために、以下の項目についてまとめておくことが大事になります。
(1)婚姻費用
夫婦はお互いに協力し扶助する義務がありますので、別居した場合に、相手に生活費を請求することができる場合があります。婚姻費用の具体的な金額は、収入に応じて決められます。婚姻費用についての詳しい説明は、(https://www.orio-sougou.jp/youikuhi/)をご覧下さい。
(2)養育費
夫婦に未成年の子がいる場合、離婚後は一方の親が未成年の子を監護することになりますが、監護しない親も収入などに応じて子どもの養育費を支払う義務を負います。養育費の額については、婚姻費用と同様に収入に応じて決められます。養育費についての詳しい説明は、(https://www.orio-sougou.jp/youikuhi/)をご覧下さい。
(3)財産分与
婚姻中、夫婦が協力して築いた財産は、夫婦共有財産として一方に対して財産の分与を求めることができます。夫婦の財産としてどのようなものがあるかは、必ずリストアップして計算しておきましょう。財産分与についての詳しい説明は、(https://www.orio-sougou.jp/zaisanbunyo/)をご覧下さい。
(4)慰謝料
配偶者の浮気や暴力により離婚に至る場合には慰謝料を請求することができます。もっとも、単なる性格の不一致や離婚原因にいずれかに責任があるとはいえない場合には発生しませんので注意が必要です。離婚に至る原因で、特に多いのが浮気(不貞)です。不貞慰謝料についての詳しい説明は、(https://www.orio-sougou.jp/futeiisyaryou/)をご覧下さい。