主婦の休業損害
1.交通事故における休業損害とは
交通事故における休業損害とは、交通事故により受けた怪我や怪我の療養のために、仕事を休業したり十分に稼働できなかった場合に生じた収入の減少を損害とするものです。休業損害は、交通事故によって生じた損害ですので、相手方任意保険会社に対して請求できます。
休業損害は、一般的には、(事故前の収入の日額×事故発生日から症状固定日までに休業した日数)で計算されます。
休業損害は、被害者の方の職業の類型(会社員、会社役員、自営業者など)により、計算方法が異なります。
2.主婦に休業損害が認められるか
休業損害とは、事故で休業したために給料等を得られなくなったことによる損害ですので、主婦の方は、実際に収入を得ていない以上、休業損害が認められないようにも思えます。しかし、家事についても家族のために家事労働をしており、報酬相当の利益を家族のために確保しているといえますので、休業損害が認められます。
もっとも、一人暮らしで家事をしている場合は休業損害は認められず、兼業主婦として家事をしている場合も事情によっては認められないこともあります。
3.専業主婦の休業損害の計算方法
専業主婦の休業損害の計算方法は幾つかあります。
まず、自賠責保険の基準では、原則として1日あたりの損害額が6100円(2020年4月1日以降の交通事故)、もしくは5700円(2020年3月31日以前の交通事故)と定められています。注意点として、自賠責保険は治療費、慰謝料、休業損害等含めて傷害での保険金支払いの限度額が120万円となっていますので、通院日数が多く治療費や慰謝料で120万円の枠を使い切った場合は、休業損害は支払われません。
次に、裁判所の基準では、原則、事故が発生した年の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を基準に計算します。賃金センサスとは、毎年実施されている政府の調査に基づき、労働者の性別、年齢、学歴等の別に、その平均収入をまとめた資料のことで、学歴計・全年齢平均とは、全ての学歴、年齢の平均をとった値ということです。なお、高齢の方の場合には、年齢別平均賃金を参照にすることもあります。
賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金は、令和3年では385万9400円とされています。これを365日で割ると1日あたり1万630円となります。したがって自賠責基準より高く見えます。
しかし、裁判所は、通院日数をそのまま休業損害として認定する訳ではなく、実際の被害者の症状や家事に支障が生じている程度に応じて1日あたりの金額を徐々に減らして認定することが通常です。
よって、自賠責基準よりも高い認定になるとは限りません。もっとも、上記の通り、自賠責基準は治療費、慰謝料、休業損害等併せて120万円が支払限度額で、他方、裁判所基準にはそのような限度額はありませんので、その点では裁判所基準が有利です。
自賠責、裁判所基準の他にも、弁護士が交渉する場合には、幾つか計算方法があり、被害者の方に有利な算定方法の検討が可能です。
4 兼業主婦の休業損害の計算方法
家事をされている方が仕事もしている兼業主婦(共稼ぎ、パートタイマー等)の方の場合でも、収入が賃金センサスの女性労働者の平均賃金を超えない場合には、専業主婦の方と同じように、家事の休業損害を請求できます。もっとも、兼業主婦の休業損害が女性労働者の平均賃金を超える場合には、実収入額により給与所得者(もしくは個人事業主)の休業損害を算定します。
5 後遺障害が認められた場合
後遺障害が認められる場合は逸失利益が請求できますが、逸失利益とは交通事故により後遺障害が残ったことで労働能力が減少し、将来得るはずの収入が減少した損害のことをいいます。主婦の方が後遺障害が認定された場合には、主婦の逸失利益が請求できます。