交通事故で骨折した場合
1 交通事故直後の対応
(1)早期の初診の重要性
骨折に限った話ではありませんが、交通事故にあった後、痛みが強く骨折の可能性がある場合には、可能な限り早く病院に行き、治療を受けることが大事です。
交通事故からしばらく経過してから病院に行った場合に、交通事故と骨折の因果関係がない(交通事故とは別の原因で骨折した疑いがある)とされて、加害者に対して損害賠償ができなくなるおそれがあります。
具体的には、事故から2週間が経過してからの初診の場合には、治療開始が遅れた理由について合理的な説明が求められます。できれば、交通事故の当日、もし仕事や用事などで交通事故当日の初診が難しくても、翌日頃には病院に行かれるようにして下さい。病院では、骨折の有無、程度を医師に把握してもらうためにも、X線やCT、MRIなど検査を希望し、検査をしてもらうようにして下さい。
(2)交通事故で骨折とされた場合の注意点
医師の診察を受けて骨折と診断された場合、初診もしくは交通事故の治療の初期に、骨折の部位に限らず痛みやしびれがある部位があれば、その時点で軽微であったとしても、余すところなく全ての部位の症状を医師に伝えるようにして下さい。
治療の途中でそれまでになかった新たな症状が発現したとされてしまうと、新たな症状が交通事故と因果関係がない(交通事故とは別の原因に起因する症状である)とされる可能性があります。特に骨折のように、事故直後の痛みが強い部位があると、骨折の治療を優先して、捻挫や打撲などの痛みを正確に伝えられていないこともありますので、注意が必要です。
2 交通事故により骨折した場合に認められる慰謝料
慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類があります。それぞれに定額化の傾向が定着しています。
(1)入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、事故により怪我をした場合に入通院をせざるを得なくなったことに対する慰謝料です。交通事故が起きた日から怪我の症状が固定するまでの精神的苦痛に対して支払われるものです。
(2)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、症状固定後に後遺障害が残存した場合に認められる慰謝料です。後遺障害については、原則として自賠責保険の後遺障害等級が認定された場合に支払いがされることになります。
3 骨折を原因とする入通院の慰謝料
骨折を理由に入通院した場合は慰謝料が発生します。
この慰謝料を算定する基準として、大きく分けて①自賠責保険基準、②任意保険基準、③弁護士基準(裁判基準)があると言われています。
①は自賠責が決めている金額で、②は任意保険が決めている基準と言われますが内容は不透明です。③は弁護士が代理人となった場合に提示される金額ですが最も高額とされています。
通常、ご本人で交渉する場合は①か②の金額となるため、弁護士に依頼すると慰謝料が上がる場合が多いです(ただし、個別の事案の事情にもよります)。
①自賠責の慰謝料は以下のうち金額が少ない方が基準となります。
- 4300円(*)×総治療日数
- 4300円(*)×実通院日数×2
*2020年3月31日以前の事故は4200円
ただし、自賠責の金額には上限があるため、治療費や休業損害が大きくなった場合は上記金額よりも低い金額になります。
③弁護士基準は上記の様な一定の計算式ではなく通院期間と入院期間を軸に作られた表があり、個別の事案の事情にもよりますが、一般的に①よりも高額になっています。
4 骨折を原因とする後遺障害と慰謝料
(1)骨折を原因とする後遺障害の種類
交通事故で骨折を負った場合、認定される可能性のある後遺障害としては大きく分けて6種類あります。
① 機能障害 | 手足や指の機能が失われたり、可動域の一部が制限されてしまった場合の後遺障害。 |
---|---|
② 神経障害 | 痛みや痺れが残ったりした場合の後遺障害。 |
③ 短縮障害 | 一方の足が短くなってしまう後遺障害。 |
④ 欠損障害 | 手足や指の全部または一部を失ってしまう後遺障害。手術などで負傷部位の切断を余儀なくされた場合などに発生します。 |
⑤ 運動障害 | 脊柱(背骨)まわりが動きにくくなってしまう後遺障害。 |
⑥ 変形障害 | 骨折の程度がひどい場合や、治癒しきれずに癒合不全等が生じ、骨が変形してしまう後遺障害。 |
後遺障害はその程度によって第1級から第14級に認定されることになります。大きく見ると第1級が重く、第14級が軽い後遺障害ということになりますが、骨折を負っても完治した場合や症状が軽い場合には後遺障害が認定されないこともあります。
(2)慰謝料の金額
後遺障害が認定された場合には、その等級に応じて後遺障害慰謝料が支払われます。交通事故の慰謝料には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士(裁判)基準の3つの基準があります。
任意保険基準は公表されておらず不透明ですが、自賠責基準、弁護士(裁判)基準は以下金額が相場となります。もっとも弁護士(裁判)基準は相場であり、交渉で終了するか、裁判までするか、あるいは個別の障害の事情によって変動します。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
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第14級 | 32万円 | 110万円 |
第13級 | 57万円 | 180万円 |
第12級 | 94万円 | 290万円 |
第11級 | 136万円 | 420万円 |
第10級 | 190万円 | 550万円 |
第9級 | 249万円 | 690万円 |
第8級 | 331万円 | 830万円 |
第7級 | 419万円 | 1,000万円 |
第6級 | 512万円 | 1,180万円 |
第5級 | 618万円 | 1,400万円 |
第4級 | 737万円 | 1,670万円 |
第3級 | 861万円 | 1,990万円 |
第2級 | 998万円(1,203万円) | 2,370万円 |
第1級 | 1,150万円(1,650万円) | 2,800万円 |
※日弁連交通事故相談センター 東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 2022年版上巻』参照
※第1級と第2級の自賠責基準の金額は、介護を要する後遺障害とそうでない場合で2種類あり、介護を要する後遺障害については括弧内の金額となります。